大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和50年(ウ)1170号 決定 1975年12月08日

強制執行停止決定

当事者の表示 別紙目録記載のとおり

右申立人は、被申立人らとの間の当裁判所昭和四九年(ネ)第四五三号、同年(ネ)第四七三号、昭和五〇年(ネ)第七二四号、同年(ネ)第七六〇号、同年(ネ)第八六〇号大阪国際空港夜間飛行禁止等請求控訴、同附帯控訴事件の仮執行宣言付判決に対し上告を提起し、その執行力ある正本に基づく主文一(一)の強制執行の停止を申し立てた。よつて、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

右強制執行は、現在毎日午後九時から同一〇時までの間に運行中の国際線定期便航空機の離着陸にかぎり、次の期限および条件を付して停止する。

(一)  停止期限 昭和五一年五月末日まで

(二)  同日までは、申立人において、被申立人らの承諾を得ないかぎり、本件空港にエアバスを導入せず、かつ、午前七時から午後九時までの離着陸機数を現状より増加しないこと。

本件その余の申立を却下する。

理由

仮執行宣言付判決に対する上告の提起に伴う執行の停止は、執行により償うこと能わざる損害を生ずべきことが疎明された場合にのみ、これを許すべきものであるところ、当裁判所の本件判決中航空機の夜間離着陸禁止を命じた部分(以下、本件差止命令という)が執行されるときは申立人に重大な損害を生ずるであろうことは容易に首肯されるところではあるが、当裁判所は、申立人の右損害をも十分に考慮したうえ、被申立人らの被害軽減のためには申立人に右損害の発生を受忍するよう求めることもやむをえないものとして、本件差止命令を発し、かつ、これに仮執行宣言を付したのであり、少なくとも国内線航空機の発着に関するかぎり、判決時に当裁判所が斟酌しなかつたような異例、重大な損害が生ずることは疎明されていないのである。したがつて、国内線については執行により償うこと能わざる損害が生ずるものとは認められない。

しかしながら、現在運行中の国際線定期便については、申立人主張のとおり国際的影響等が重大であり、直ちにこれを廃止することを著しく困難とする事情も了解しえないものではない。したがつて、右国際線に関するかぎり、その離着陸禁止を即時に執行されるときには、償うこと能わざる損害が生ずるものと認めるべきである。

しかし、右国際線の発着を許容することによつて、本件判決の前記のような趣旨が損われる事態は極力避けるべきであり、少なくとも、午前七時から午後九時までの間、被申立人らの被害を現状より増大させるような行為は是認しえないところである。たとえば、申立人において本件空港にエアバスを導入しあるいは現在午後九時以降に発着している国内線航空機を午後九時以前にくり上げその時間帯においてはかえつて増便することを計画していることが巷間伝えられているが、本件判決においては、現時点においてエアバスの導入につき被申立人らの十分な理解を得ていないこともやむをえないものと判断し、また、午前七時から午後九時までの間の運行が現状のままであれば、被申立人らの被害の発生は継続するものと認定したのであるから、右のような計画は本件判決の趣旨に反することである。したがつて、本件差止命令の執行を国際線にかぎり停止するにあたつては、その条件として本件判決の趣旨に反する右のような措置をとらないことを要求せざるをえないとともに、右国際線についても、相当期間内にこれを廃止すべく努力することを期待し、停止の一応の期限を定めるのである。よつて、主文のとおり決定する。

(大野千里 野田宏 中田耕三)

別紙 当事者目録<略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例